アムステルダムの抹茶ブームの陰で、老舗がほうじ茶をやめた理由

アムステルダムのカフェで頼んだ抹茶ラテとバナナケーキ。淡い黄緑色の抹茶ラテにリーフのラテアートが描かれている海外で一福

アムステルダムのカフェで抹茶ラテを頼んだら、淡い黄緑色で表面にリーフのラテアートが描かれたかわいいラテが出てきました。飲んでみると、とてもおいしかったです。宇治で飲んだ抹茶のような濃厚さはありませんが、そのかわりフォーミングされたミルクとよくなじんでいて、くどさが全くありませんでした。しっかり泡立てたミルクのせいか口当たりも柔らかく、茶筅で点てたものとは別の飲みものみたいです。なにより驚いたのは、一緒に頼んだバナナケーキの味を邪魔しなかったことです。抹茶と言えば良くも悪くも「茶」を強く感じてしまうものですが、これならお茶が苦手な人でもおいしく飲めると思います。

アムステルダムのカフェで頼んだ抹茶ラテとバナナケーキ。淡い黄緑色の抹茶ラテにリーフのラテアートが描かれている

店は Coffee District Buitenveldert です。値段は5ユーロでした。同じ店のアメリカーノが4ユーロなので、コーヒーより1ユーロ高いことになります。一緒に頼んだバナナケーキも4ユーロだったので、この一皿で9ユーロ、日本円にすると1,500円を少し超えるくらいでしょうか(この記事では1ユーロ170円で計算しています)。観光地の特別な値段というわけではなく、このあたりではふつうの水準だと思います。

それで、帰り道に考えていたのは味のことではありませんでした。この抹茶はどこから来たんだろう、ということです。日本茶のサイトを2年半書いてきて、海外の抹茶ブームの話は何度も目にしてきましたが、自分のお金で1杯飲んだのはこのときが初めてでした。調べていくうちに、日本の老舗がほうじ茶の販売をやめたという話に行き当たったので、その道筋をそのまま書いておきます。

ところで、抹茶ラテにコーヒーは入っていません

自分の勘違いから書きます。私はずっと、抹茶ラテというのはカフェラテに抹茶を足したもの、つまりコーヒーとミルクと抹茶が入った飲みものだと思っていました。よく考えれば違います。latte はイタリア語で牛乳のことなので、カフェラテが「コーヒー+牛乳」なら、抹茶ラテは「抹茶+牛乳」です。コーヒーは入っていません。エスプレッソも入れたものにはダーティ抹茶という別の名前がついていて、わざわざ言い分けているあたりにも、抹茶ラテにコーヒーが入っていないことが表れていると思います。

日本茶のことを書いている人間が、アムステルダムのカフェで初めてそれを意識したわけで、お恥ずかしい話ではあります。ただ、同じ勘違いをしている方はけっこういるのではないでしょうか。

その店に、煎茶はありませんでした

メニューを最後まで見ましたが、抹茶以外の日本茶はありませんでした。煎茶も、緑茶のティーバッグもなく、あるのは抹茶と、抹茶を使ったドリンクだけです。店内で抹茶パウダーを売っているということもありませんでした。

ここで思い出したことがあります。以前、職場で5カ国の同僚に日本茶を出したことがあるのですが、そのとき最初に返ってきた質問が「これは抹茶?」でした(日本茶を5カ国の同僚に出したら、最初の質問は「これは抹茶?」でした)。街のカフェでは抹茶が当たり前に飲まれていて、オフィスで煎茶を出すと抹茶かと聞かれる。外から見ても内から見ても同じことが起きていて、ヨーロッパで日本茶として認識されているものは、かなりの部分が抹茶なのだろうと思います。

スーパーの棚も、同じ形でした

カフェが特別だったわけではありません。少し前に、近所のアルバート・ハインの紅茶・緑茶の棚を端から端まで見たことがあります。

オランダのスーパー、アルバートハインの紅茶・緑茶売り場。棚の大半を紅茶とフレーバーティーが占め、緑茶はティーバッグと抹茶パウダーだけが並んでいる
抹茶・パウダー類価格
AH「CEREMONIAL GRADE MATCHA」€7.99
AH「100% pure matcha」€7.99
PerfectTed「VANILLA MATCHA」€12.99
PerfectTed「ROASTED GREEN TEA POWDER HOJICHA」€7.49
PerfectTed「SINGLE SERVE MATCHA」(スティック)€6.99

いっぽう緑茶のほうは、AH Bio の「GROENE THEE」がオレンジフラワー・ジャスミン・生姜レモングラスの3種で各20袋、BONUSで3個3ユーロでしたから、1箱あたり1ユーロほどです。棚の右半分は Pickwick のフレーバー緑茶が占めていました(Pickwickの緑茶は日本茶の代わりになる?オランダの国民的ブランドを正直にレビューします)。

この棚で気になったことが3つあります。ひとつは、茶葉の煎茶が1つも無いことで、あるのはティーバッグかパウダーだけでした。ふたつめは、緑茶がほぼすべてフレーバー付きだったこと。そして3つめが、抹茶パウダーの7.99〜12.99ユーロという値段が、1箱1ユーロの緑茶と一桁違っていることです。

カフェで見たのと同じ形が、そのまま棚にもありました。抹茶は主役の値段で置かれていて、煎茶は茶葉ですら置かれていません。

いちばん高かった PerfectTed はイギリスのブランドですが、袋には原産国は日本と書かれていました。日本の抹茶が、イギリスのブランドの袋に詰められて、アムステルダムのスーパーに並んでいるわけです。

日本では何が起きているのか

海外で抹茶が売れているというのは、数字にもはっきり出ています。粉末状茶の輸出量は2020年の2,375トンから2025年には8,718トンへ、5年で3.7倍になりました。伸びている行き先として名指しされているのが欧州向けなので、さっきの棚もその一部ということになります。

そして日本側では、こうなっています。

碾茶(てんちゃ)というのは抹茶の原料になるお茶で、1991年には1,000トン未満だった生産量が、2024年には5,336トンになりました。直近5年で5割増えています。荒茶の生産に占める比率も2015年の約3%から2024年には7.3%まで上がっていて、生産の4割を占める鹿児島で増産が目立つそうです。

増えている理由は値段です。2024年の荒茶(あらちゃ)の単価は、碾茶が1キロ3,278円、煎茶が1,197円でした。荒茶というのは、摘んだ葉をひとまず製茶した段階のもので、これを仕上げて店に並ぶお茶になります。その入口の時点で、2.7倍の差がついているということです。

碾茶や番茶といった言葉は、日本茶の用語辞典|深蒸し・被覆・火入れ・出物など、買うときに効く言葉を解説 にまとめてあります。

抹茶も煎茶もほうじ茶も、同じ木から作られています

次の話に入る前に、ひとつだけ前提を書かせてください。ここを飛ばすと、よその世界の話に聞こえてしまうと思うので。

抹茶も煎茶も番茶もほうじ茶も、原料は同じチャノキです。品種の違いはありますが別の植物ではなく、違うのは育て方と、摘んだあとの加工だけです。抹茶は摘む前に数週間ほど日光をさえぎって育てたものを蒸し、揉まずに乾かして葉脈を取り除いた碾茶を、石臼などで挽いて作ります。煎茶は日光を当てて育て、蒸して揉みながら乾かします。番茶は二番茶以降の葉や大きく育った葉から作られ、ほうじ茶はその番茶や煎茶を強火で焙じたものです。

一番茶と二番茶についても書いておきます。茶の木は春にいちばんよい新芽を出して、それを摘んだものが一番茶です。摘んだあとにまた芽が伸びてくるので、初夏にもう一度摘むのが二番茶になります。一番茶のほうが値段も高く、いい茶葉として扱われますが、そのあとに来る二番茶にも役割があって、番茶やほうじ茶はここから作られます。

つまり、ほうじ茶は番茶の加工品で、番茶は二番茶から生まれます。そして同じ畑の同じ木を、抹茶用に使うか煎茶用に使うかは選べます。碾茶が煎茶の2.7倍で売れるなら覆いをかけて抹茶用に回す、というだけのことで、畑が減ったわけでも木が枯れたわけでもありません。同じ木から出てくるものが入れ替わっただけです。だからこの話は、日本茶が減っているというより、日本茶の中身が入れ替わっている、と言ったほうが正確だと思います。

先に消えたのは、ほうじ茶と玄米茶でした

一保堂茶舗が2026年2月1日に告知を出して、3月1日から6つの商品の販売を終了しました。極上ほうじ茶、極上玄米茶、くきほうじ茶、若柳などの200g袋と、ほうじ茶のティーバッグです。ドリップティーバッグのほうじ茶も、再開時期未定の販売休止になっています。抹茶ではなく、ほうじ茶と玄米茶のほうが先に無くなりました。

理由が2つ書かれていて、ひとつは海外需要の増加にともなって全国的に抹茶の生産へ切り替わってきたこと、その結果として番茶の生産量が大幅に落ちると見込まれること。2025年の京都産抹茶の価格は前年の2.6倍になったそうです。

もう一つの理由は、一番茶で抹茶を作ると、遮光のせいで茶の木にストレスがかかるので、翌年以降の品質を守るために二番茶の時期はあえて摘まずに木を休ませる、というものです。番茶はその二番茶から作られるわけですから、抹茶を採るとその年の番茶がそもそも生まれない、ということになります。畑が減ったという話ではなく、同じ木から別のお茶が出てこなくなるという話です。

丸久小山園のほうも、2024年10月25日から抹茶全般の販売制限を続けていて、直営5店舗で数量を制限しています。この告知は2年近く経った今も掲載されたままです。

さいごに

この記事で言いたかったことは、アムステルダムのカフェで飲む抹茶ラテと、日本の実家で飲むほうじ茶は、同じ畑から来ている、ということです。

抹茶が売れるのは日本茶にとっていいことですし、その入口から日本茶の世界へ入ってくる人が増えるのも歓迎します。ただ、その裏側で、毎日飲まれてきたお茶のほうが先に消えている。そのことは知っておいて欲しいと思いました。

日本に帰ったら、まずほうじ茶を買おうと思っています。それがまだ棚にあるうちに(【海外赴任者必見】一時帰国で絶対に買って帰りたい!厳選日本茶おすすめ3選)。煎茶の淹れ方は 高級煎茶を最大限に堪能できる淹れ方とは? に、硬い水で淹れたときにどれくらい味が落ちるかは オランダの水道水で日本茶を淹れると味はどう変わる?市販の軟水と飲み比べて分かったこと にまとめてあるので、硬い水しかない場所で飲んでいる方への参考にどうぞ。

出典

  • 農林中金総合研究所「抹茶ブームと煎茶高騰 ―転換期にある茶の未来を考える―」(2026年5月14日)
  • 一保堂茶舗「お茶を取り巻く状況と番茶類の販売制限についてのご案内」(2026年2月1日)
  • 丸久小山園「抹茶の在庫薄及び販売制限について」(2024年10月25日)
  • PerfectTed のパッケージ(2026年10月3日確認)
  • Albert Heijn 店頭(2026年8月23日)/Coffee District Buitenveldert(アムステルダム・2026年9月)

コメント

タイトルとURLをコピーしました